こちらのご本からお借りしています。
【生と死】
人生とは、一日一日が、いわば死への旅路であるといえよう。
生あるものがいつかは死に至るというのが自然の理法であるかぎり、ものみなすべて、この旅路に変更はない。ただ人間だけは、これが自然の理法であることを知って、この旅路に対処することができる。
いつ死に至るかわからないにしても、生命のある間に、これだけのことをやっておきたいなどと、いろいろに思いをめぐらすのである。これは別に老人だけにかぎらない。
青春に胸をふくらます若人が、来るべき人生に備えていろいろと計画するのも、これもまた死への準備にほかならないといえる。生と死とは表裏一体。
だから生の準備はすなわち死の準備である。死を恐れるのは人間の本能である。
だが、死を恐れるよりも、死の準備のないことを恐れたほうがいい。人はいつも死に直面している。
それだけに、生は尊い。
そしてそれだけに、与えられている生命を最大に生かさなければならないのである。それを考えるのがすなわち、死の準備 である。
そしてそれが生の準備となるのである。おたがいに、生あるものに与えられたこのきびしい宿命を直視し、これに対処する道を厳粛に、しかも楽しみつつ、考えたいものである。